「・・・は?方丈那智がいない?」
あのまま夜までぐっすりと眠り、部屋へと戻ろうとしたときのこと。
一人の生徒会役員に呼び止められ、そのことを告げられた。
「そーなんスよ!まずいッスよ〜!」
・・・確かあれは「ボンバー」とか呼ばれてた子か。
名前・・・あぁ、全く思い出せない。
ま、特に気にすることもないので思い出すことは放棄することにした。
「先輩、見てないッスか〜?」
「いや、起きたばっかだし・・・てか、どこでいなくなったの?」
「今、レクリエーションで肝試しやってたんスよ!そのときです!」
「・・・肝試し?」
まさか、余興でも行ったというのだろうか。
それにしてもこの山中で肝試しとはタチの悪い悪戯としか思えない。
参加させられなかったことは心からよかったと思う。
「俺、那智さんと同じスタート地点での待機だったんスけど、気付いたら那智さんいなくなってて・・・」
「・・・携帯は?」
「つながらないんスよ〜・・・電源が切れちゃってるのかも・・・」
・・・絶対、わざとだな。
あぁ、こういうところは面倒な男だ。
一言言って消えればすむものを、言わずにふらっと立ち去るんだろう。
自分勝手な男だ。
・・・なんて考えても意味がない。
「・・・ねぇ、私探しに行くから君はここで待機ね」
「え?で、でも・・・」
「いいから、携帯番号書いて頂戴。それからこれは誰にも言ってないわよね?」
「あ、まだ報告言ってないんでしてないっす!」
「じゃあ適当にごまかしておいて。私があとはなんとかするから」
「て、適当って・・・てかここ山ん中ッスよ!?」
なんだかんだ言いながら書かれた携帯番号を持ち、慌てふためく彼を放置して外に向かう。
・・・あいつ、とりあえず出会ったら殴ってやろうかしら。
人に心配かけさせるなって言っといて自分のことはいいわけ?
「・・・なんで私が心配しなくちゃいけないのよ・・・」
ふと過ぎった考えを振り切って、私は外へと出て行く。
扉を開けると外は天気もよく、満天に輝く星がとても綺麗だった。
電気もない場所では暗くて辺りが見えないかもと思ったが、それ以上に輝く星は辺りを明るく照らしていた。
怖い暗闇というより、心地よい闇。
なんだか気分も落ち着くのは自然という力だろうか。
「・・・でも、山はないわ・・・」
思わず呟いた先は山道。
ハイキングコースのようなものだが、こんなもの夜になんて特に登りたいとも思わない。
・・・やっぱり、一発殴ってやろう。
そう決めて、ゆっくりと歩き出したのだった。

どのくらい歩いただろうか。
辛いと思っていた道は意外にもそこまで苦はなく、夜の風が動く体にはちょうどよかった。
暗い夜道も、木の合間からさしこむ月明かりがとても綺麗で気持ちよい。
なんだか、散歩にだけ来たんじゃないかという気分になってきた頃。
視界が段々と明るくなってきた。
大きな川が流れ、夜空がよく見えるひらけた場所。
これが自然の力か。などとのんきに感動してしまった。
「・・・あ〜あ・・・」
それと同時に聞こえた声。
これは間違いなく、探してた相手。
予想以上の、空気をまとって彼はそこにいた。
夜に出会ったときとは違う。
明らかに、全てを拒否するような、そんな空気。
思わず、その場で立ち止まってしまった。
「・・・クソつっまんねぇなぁ」
そして聞こえてくる声。
「・・・は?」
思わず間抜けな声が出た。
その途端、声の主がこちらに勢いよく振り向く。
「っ、誰だ・・・?」
「・・・どーも」
隠れるわけにも行かず、そのまま歩み寄る。
方丈那智は相変わらず驚いた顔でこちらを見たまま。
何も言わず、とりあえず横に座り込んだ。
「まったく・・・なんでこんな遠くまで来てるのよ」
「いや・・・ていうか、なんでここに?」
声が、動揺を隠しきれてなかった。
なんだか、その様子は新鮮でちょっとだけ面白い。
「貴方がいないって騒いでる人に出会ったからかな」
「騒いでるって・・・ボンバー?」
「ああそうその人。名前なんだっけ?」
「・・・いーよ、覚えなくて」
少しだけ平常に戻ったからか、あからさまに不機嫌そうに彼は言う。
きっと戻ったら面倒なことになっていると思っての言葉だろう。
まぁその気持ちはわからなくもないけれど。
「それにしてもいい天気ね。星がよく見える」
「・・・都会の夜は電気だらけだしね」
「うん、こんなにたくさん星見たのはじめてかも」
「・・・なにも聞かないの?」
唐突に切り出される。
横目で彼を見ると、私と同じように空を見上げたまま。
その横顔は、以前夜に見たあの顔。
「・・・聞いてほしいなら聞くけど」
それだけ言う。
彼は何も答えない。
「答えてくれそうにない相手に聞くほど、いい人ぶってないから私」
まぁ、本当は殴ってやろうと思ったけど、と付け足す。
「・・・ははっ、らしい」
乾いた笑いと共に、少しだけ笑顔を見せる。
普段の笑顔とは全く別物だけど、私はこっちの方が彼らしいと思う。
「・・・まぁ」
しばらくして彼が話し出す。
「いやな気分になっただけ、だよ」
それだけしか言わなかった。
別に、それでよかった。
詳しく聞こうとか、そういうことは思ってない。
少しでも、理由がわかればそれでいい。
たとえ嘘だったとしても、私にどうこう言う資格などないから。
「・・・そう」
「そういうこと。ごめんね、こんな山奥まで探させて」
「本当よ。一応、病み上がりなんだから」
「っ・・・そうだ、なんでこんなとこまで1人で来てんだよ・・・」
皮肉のように言ったら逆に怒りが降ってきた。
この人、すっかり私が病人だということは忘れてたみたい。
ずい、と思い切り顔を近づけられ、表情は心配そうなのに声は怒ってて。
・・・思わず体を引いてしまう。
「いや・・・特にもう元気だし」
「病み上がりはすぐに体調崩しやすいんだよ。それにそんな薄着で来て・・・夏でも山の夜は寒いんだからな」
あぁもう、などと言いながら立ち上がると私の手を引く。
「ほら、さっさと帰ろ。体冷える」
「大丈夫だって・・・」
「いいから」
きっぱりといわれると何もいえなくなる。
そのまま歩き出しながらふと考える。
こうして、手をつながれるのは何度目だろう。
思えば異性と手をつなぐことなど、今までなかった。
そんなことしたいとも思わないし、何よりそんなこととは無縁の生活だった。
夜の街では変な輩にしか出会わないし、学校でも交流を持つこともない。
・・・なぜ、ここまで彼と知り合うハメになってしまったんだろう。
面倒なことばかり押し付けられて、夏休みまでこうして補習。
自分の時間が、どんどん削られていく。
いいことなんて、1つも増えてない。
でも、不思議と居心地悪くはなかった。
どういうものか説明しろと言われたら難しくていえないけど。
だから今も、こうしていられる。
ただ1つ、彼が何か大きな悩みを抱えているような気がして。
それが気になって仕方なくなっていく。
「・・・?」
「あ・・・なに?」
ずっと無言だったからか、彼は足を止めて振り返る。
すでに表情は、学校での彼だった。
「ごめん」
「え?」
予想外の一言に、驚く。
なんで謝られたのか、さっぱり理解ができない。
「おれ、には変なとこ見せてばっかりだし。それにこんなとこまで探しにこさせてさ・・・本当にごめん」
「・・・いや、これは勝手に来ただけだし」
「いつか、ちゃんと話すよ」
そういった彼の目は、いつもより真剣に見えた。
「・・・多分、ね」
そういって、彼は笑う。
あの、作られた笑顔は、こうして何かを欺くように使われるんだ。
全てを見通して言われたようなその言葉に、私はただ頷くことだけしかできなかった。
星明りは、青白い光で彼を照らす。
なぜだか、そのときの彼はすごくきれいに見えた。
***
亀更新すみませー!!!!
というわけで、夏が終わったよ!!!
次はどこから書こうかな・・・。
2009/10/26