「あーあ」


それだけ呟くと、目の前に転がる人を容赦なく蹴り飛ばす。
少しうめき声をあげたそれは、すぐに静かになった。


「・・・ちっ、もうおわりかよ・・・」



一人で彷徨う街も。
集団でうろつく街も。



今、こうして生きていることも。



つまんねぇ。





* a fateful encounter *





もう、退屈の限界だった。
楽しいことは何もない。


心が、乾いてる。


一人で夜の街を歩く。

なーんにもない街。チームは全て俺が潰した。

だから、相手というものが全くいない。
さっきのヤツみたく、知らない阿呆共が向かってくるだけ。




楽しさなんて、最初の数日だけだった。いや、数日もあったんだろうか。




「えー?いーじゃん、俺らと遊ぼうよー」




・・・こういう、くだらない声ばかり聞こえる。
どうせ、くだらない雑魚の弱いものいじめだ。

ほっといてもいいけど、今日の俺は特に機嫌が悪いんだよな。
なんてたって、雑魚相手にしてもうすぐ2桁だし?張り合いがないっていうか。


はっきり言って・・・うざいの、大嫌いなんだよね。


近くの路地裏で、それは行われていた。
一人の女を、数人が囲んでいる。
顔も知らない奴等。本当にただの雑魚だったな。
あーあ、つまんねぇ。


「ほらほら、暇なんだろー?」
「俺たちも暇だしさ、遊んであげるって!」



逃がさないように周囲を囲んで、そんなことほざいてる。
誰も相手になんてしたくねぇだろ、お前らなんて。



大して暇つぶしにもならないけど、やるか。



そう思った刹那。



「・・・っさいわね・・・!」



しびれを切らしたかのように女が声を発した。
震えや恐怖感は感じられないその声に、進めた身体を思わず壁に隠した。
なんだ?今のは。

「あ?なんだよ?」

「うっさいって言ってんのよあんたら!!!!」

大声で女が叫んだ。
それがあまりにも迫力があって、俺でさえ少し驚いた。
もちろん、あいつらはそれ以上に驚いたようで少し後ずさる。


「な、なんだてめぇ・・・」

「いーからそこになおれや!!」

「っ、はい・・・っ?」


なぜかあわてて言われたままに並ぶ奴等。
確かに今のは、否定をさせない声だ・・・今のが、本当にあの女から発せられたのか?
姿は暗くてよく見えない。
だが、背が高いわけでもガタイのいい風でもなく・・・どう見ても普通の女だ。


「群れて一人の女捕まえるしか脳がねぇ奴等はなぁ、不良語る資格なんてねぇんだよ!反省しやがれ!!」

「「は、はい・・・」」


女が一喝すると不良は更に小さくなったように見えた。


「おい、そこのお前」
「っ、は、はいっ!」
「てめぇなんで不良なんてやってやがんだ」
「そ、それは・・・」



一人の男が戸惑う。



不良やってる意味なんて、こんな雑魚に説いてもなんもでねぇだろ。



雑魚は雑魚らしく、群れていたいだけだ。



理由なんて、ない。



「理由なく不良やってるんだったらやめちまえ。他の奴等に迷惑だ」


女は強く言い放つ。
そして一歩前へとゆっくり進む。



やっと、顔が見えた。



これが、あの声の主か?



俺とほとんど変わらない歳に見えるその女は、不良やそういった類からははるかにかけ離れた顔をしていた。
もっと、そう。言うなれば聖帝にいるセレブ学生達と同じ場所にいるべき人間なんじゃないか?





それくらい、綺麗だった。





「わかったらさっさと行け。これ以上いるなら・・・私が無理矢理にでも不良、辞めさせてやろうか?」

「「ひっ・・・!!!!」」


冷酷に発せられた言葉に不良たちは逃げるようにその場から消えた。
いや、逃げたんだろう。当然だ。
俺だって、逃げたくなる気分を覚えるくらいだ。




でも、同時に興味が沸いた。

あんな女、初めてだ。

あいつをもっと、もっと知りたい。

そう思っていた時だった。





「あぁ・・・」





女がと独り言のように小さく呟く。
そして頬に両手を当ててその場にうずくまった。

なに、してんだ?
なんだかわからないが、これはチャンスかもしれない。
ゆっくりと近づく。

だんだん、見えてくる姿。

短い髪はゆるくパーマでもかかっているかのようにくるくるしてる。
綺麗な茶髪。染めてる感じがしない。

しゃがんでるからわからないけど、遠目で見た通り大きくはない。
いや、むしろ小さめ?

本当にあの声の主か?



「・・・なに、してるの?」



気付いたら声をかけてた。
もっと気の利いた言い方はないのかな、おれ。

「え?」

驚いたように少し肩を震わせこちらをすばやく見上げる。
目が合った途端、丸い目が更に大きく開かれた。

ま、確かにおれはさっきの不良よりかはぜんぜんいい男だけどね。


「・・・なんでも、ない、です」


すぐ表情を戻して彼女は立ち上がった。
うん、大きくない。正しかった。
童顔ぽい顔は高校生になりたて、かな。

ただ、瞳だけはすごく大人びている気がして、惹きこまれそうだった。
まっすぐに、こっちを見てくるから。





全部、見られてるみたい。





「あ、そう?一人で不良撃退してるのに突然しゃがみこむからなんかあったのかと思ったよ〜」


とぼけて言ってみる。
が、彼女は何も気にしてないように服装を整えている。
これは厄介、かな。

「それじゃ」
「え、ちょっと待ってって」

そそくさと会釈をしてその場を去ろうとする彼女の腕を掴んだ。
振り払われるかと思ったけど彼女はそうせずただ顔だけこちらに向けた。



また、まっすぐ見られる。



なんだか、ちょっと照れくさい。



ん?照れくさい?なんで?



「どこかのチームとか?名前は?いくつ?」
「・・・一気に聞くのね」


とりあえず思ったことを口に出したら彼女ははぁ、と深くため息をついた。
なんだ、意外に相手してくれるじゃん。


「そりゃこんなにおもし・・・いやいや、興味深い子を見つけてはいさようなら〜なんてできないし?」
「褒め言葉、でいいのかしら?」


おれがふざけて言っても作り笑顔もしてくれやしない。
ま、そのほうがおもしろいけど。


「チームなんて、入ってないわ。くだらない」

一言、それだけ呟くとおれの手から腕を引く。
もちろん、そのまま手を離すとその部分を反対の手でさすりながらまたこっちを見てきた。
瞳が、合う。
少しだけ、身体が熱くなる。





「私は、私よ」





それだけ言うとふっ、と少しだけ笑った。





思考が停止した。





それと同時に、身体の中の、何か閉じていた部分が開いた気がした。





何が開いたかなんてわからない。この気持ちもわからない。





ただ・・・今、一番会いたかったものだ。それだけはわかる。





「・・・いいね、気に入っちゃった」

にっこり、笑ってみせる。
その笑顔に彼女は不思議そうな顔をしていた。
それはそうだろうな、彼女にとっては極普通のことを言ったんだろうし。

「というわけで、名前教えて」
「いや」

きっぱりと間髪いれず彼女はそういった。

「いーじゃん、名前でどうにかなるわけじゃないでしょー?」
「無理」

それだけ言うとくるりと向きを変え歩き出してしまった。
慌てて追いかけ隣に並ぶ。
おれの肩ほどまでしかない背。先ほどの声からは想像できない華奢な身体。



あぁ、もっと知りたい。



「なんでだよ〜、ケチだなぁ」
「あら、貴方みたいに名前も名乗らずに人に名前を聞く方がどうかしてると思うけど?」
「うわ、おれよりヒドイ言い方だよね、それ」


なんていいながら夜の街を歩く。


なんでだろう、これは。


何もしていないのに、こんなに気持ちいいなんて思わなかった。


なんだろう、この空気は。あたたかい?いや、適温?気持ちいい?


考えてもよくわからない。


でも、悪くはない。


「名前なんてぱぱって言っちゃえばおしまいじゃん?」
「そういう貴方が名乗ったら?」
「おれは〜、企業秘密」
「じゃ、私も」


これだけでいつまで続くのか。ていうか、これって俺のナンパ?
わー、おれナンパって初めてしたよ。



「あ、ナチさん!」



げ。


譲・・・あいつ空気よまねぇな。


後でシメる。


「ナチ・・・ね」
「いやー、あれは芸名っていうか・・・」
「?何いってんすかナチさん」


譲、てめぇ・・・。
睨んだらあいつ地雷踏んだみたいな顔してやがる。
・・・ま、いっか。


「・・・と、ところでっ、その人誰です?新しい仲間ですか?」

譲は彼女を見て尋ねる。
まぁ、おれがこんなとこで一緒にいるヤツなんてチームの奴等しかいないもんな。

「あら、やっぱり大きなチームのリーダーさんだったのね」

彼女は納得したように言う。
あぁ、なんかもうどうでもいいや。
なんて思いながら、大きくため息をつく。

「譲、お前あっち行ってろ」
「え?」
「いーから、いけよ」

トーンを下げて睨むだけで、譲はおとなしく従う。
・・・こんなんだから、毎日がつまんないんだよな。

「・・・ダイヤモンドサイン」
「っ・・・やっぱり、バレる?」
「ていうかこの街、もうそれしかないじゃない」

当然でしょ?と彼女は言う。
そりゃそうだ。だっておれが潰しちゃったんだもん。バレバレだよね。

「幻滅した?」
「いいえ、特に期待とかしてたこともないしね」
「そりゃよかった」
「それじゃ、私帰るから着いてこないでね」
「は?」

何事もなかったようにスタスタと歩き出す彼女。
なんだなんだなんだ?
思考がさっぱり理解できない。
そんな何事もなかったようにスルーできるほどの話じゃないと思うんだけど・・・ってそれは自分のことわかってるからか。

とか、考えてる暇はない。

「ちょっと・・・!」
「あぁ、そうそう」

追いかけようとした矢先、彼女が離れたところで振り返る。
町のライトが、彼女を照らしてる。


あぁ、なんだろう。綺麗だとか思ってる自分がいるし。





「せいぜい、気をつけてね。方丈那智くん」





・・・・・・え?


いま、何て、言った?


呆気に取られている間にも彼女は遠くへ歩いていく。


追いかけられなかった。


おれを、知ってた?


まさか・・・?


「・・・ははっ、なんか色々ヤバイ感じ・・・?」


おもしろいじゃん。
俄然興味沸いたよ。



俺のことを知ってる、俺の知らない女。



絶対。見つけ出してやる。



夜空に向かってそう誓う。
こんなに興味が沸くことなんていつ以来だろう。
これは、偶然の出会い?それとも運命?
運命とか、信じる性質じゃないけどさ。これは信じてもいいかもしれないな。

次に会えるのはいつだろう。

こんなに待ち焦がれる人に会うのは、初めてかもしれない。

恋とか、そんなんじゃない。

とにかく、もっと知りたい。










***



連載第一弾です。
長々まったり那智オチでいけたらいいなぁ。
色々出す予定です、今から。

2009/08/20