「今から1時間後、駅で待ってる」



行く気はない。


彼にそこまで興味もない。


でも、外が気になってしまう。


そう、これは習慣なんだもの。


駅に行くのは、ただの偶然。


ただ単に、この苛々をどうにかしたいだけなんだから。




distance




外は大分暗くなっていた。
夜はとても静かだ。
でも一歩繁華街に入れば、昼と同じ喧騒に包まれる。


その場に混じるのは、色んな意味で好きだった。



駅に着く。

辺りに彼の姿はない。

「あれだけ言って遅刻・・・?」

呆れたように呟くと、目の前に大きな音を立ててバイクが止まった。



「やっぱり来てくれた」



ヘルメットの中から聞き覚えのある声がする。
少し、予想外だった。
バイクに乗ってる姿は、今までからは考えられなかった。



ヘルメットを外すと、いつもの彼が顔を見せる。



ただ、あの笑顔はなくて。



思わずぞくっとするほどの冷たい笑み。



これが、彼の本当の笑顔なのか。



「・・・バイク乗れたんだ」
「まぁね。ほら、乗ってよ」
「ヘルメットないけど」
「あるから大丈夫」


後ろから取り出されたヘルメットを渡される。
言われるままにヘルメットを被り、後ろにまたがった。


「さすが、普通に乗るね」
「あら、女の子みたいに座ればよかった?」
「いや、らしくていい」


私らしい、というのはどういう意味だろうか。
少し睨もうとしたが、ヘルメット越しには伝わらないから止めた。


「しっかり掴まってろよ」


バイクに乗ると性格が変わるのか、それとも夜だからか。
ゆっくりと速度を上げ、バイクは走りだした。



***



最初に行ったのは隣の駅にあるゲームセンター。
隣の駅なのは、見られる危険性を減らすためだろうか。
そこで見知った顔を見ることはなかった。


ってゲームしなさそうだよね」
「まぁね・・・見るくらいはするけど」
「じゃあさ、ぬいぐるみとかは?」


あそこ、と指差す先にはUFOキャッチャー。
中に入っているぬいぐるみと、目があう。


「・・・別に」
「あ、興味あるな」
「な、ないわよ」
「はいはい、どれが好き?」
「・・・」


あまり言いたくない事実だが。
私は、かわいいものが好きだったりする。

自分自身がこんな性格だから、あまり・・・いや、全く他人には伝えたくない事なのだが。
間違いなくネタにされるので、特にB6のメンツには知られないようにしていた。
嘘をつくのは大変苦手なタチだということはわかっているので、普段こういう場には近付かないでいるのに。



・・・よりによって、この人に気付かれるとは。



やっぱり、来なきゃよかった・・・。



平然を装うとするが、目の前にあるぬいぐるみたちの視線には勝てない。
お願い、こっち見ないで・・・。



、顔にやけてる」
「・・・うるさいわね」


彼はとても楽しそうだった。
私の弱み?でも知って嬉しいのだろう。


あぁ・・・もう、ヤケだ。


「・・・これ」
「ん?このクマ?」
「そう、これがいい」


それだけ聞くと彼はそのUFOキャッチャーにお金を入れる。
そんなに簡単にとれるものではないのは知っている。

だが、ほんの数秒後。

先ほどまで台の中にいたクマは、彼の手の上に移動していた。


「はい、プレゼント」


にっこり笑って、渡される。

・・・なにがなんだか。

よくわからずにクマを受け取る。
小さな、かわいいクマだった。
人からこうして物をもらうのはいつ以来だろう。
だからか、少しだけ嬉しくなった。


「あ、笑った」


なぜか、彼も嬉しそうに笑う。


「なんで、ゲーセンに来たの?」
「んー、おれ誰かと夜出かける場所とかよくわかんないから、適当」
「・・・貴方、本当性格変わるのね」
「悪い?」


なんだか開き直ったように聞かれる。

でも、なんだかこういう彼は悪くない。

自分に正直だから。


「ほら、次行くよ」


自然に手を引かれる。
あまりに自然なので、拒否することを忘れてしまった。
そこからしばらく、会話は途絶えた。





またバイクに乗せられる。
最初はすぐの距離だったけど、次はしばらくの間バイクに乗っていた。
バイクに乗ったのは初めてじゃない。
冬はごめんだが、風を切るのは中々気持ちがいいので嫌いではない。

それに、後ろに乗ると人の体温がとても近くて。

こんなに近くで人に触れたのはいつ以来だろうか。

少しだけ、安心する。




着いたのは、小高い丘のような場所だった。
星もよく見え、下ではネオンが輝いている。
とても、静かで明るい場所だった。


「きれい・・・」


思わず呟いた。
こんな場所が、近くにあるとは思わなかった。


「ここ、おれのお気に入り」
「よく来るの?」
「1人になりたいときにね」
「・・・じゃあなんでつれてきたの?」


振り返って彼を見る。
彼はなぜかきょとんとした顔でこっちを見ていた。


に、見せたかったからに決まってんじゃん」


なんだか平然と言われると言い返せない。
そういう意味で、聞いたんじゃないんだけど。

彼は近くに腰を下ろす。
私も何もすることはないので隣に座った。


「ねぇ」
「・・・なに?」


空を見ながら問いかけられる。


「なんで、夜出歩いてんの?」


夜出歩く理由。
そんなの、特に考えていたつもりはなかった。


「・・・1人になりたいからよ」
「あんなとこで1人になんてなれないじゃん」
「あんなとこ、だからよ」


はっきりと答える。


「私を知らない人に囲まれて過ごせば、自分は1人だって実感できるじゃない?」


1人でいるのは気が楽だった。
親と離れてからは余計にそう感じた。

色々な人に構われるのは至極面倒なものだった。
それにこの性格上、最終的にはよく思われることはない。
だったら最初から避けてしまいたいと思った。

そう、これは逃げているだけ。


「ふーん」


聞いておきながら、さも興味なさそうな声をあげる。
そのまま彼は後ろに寝転ぶ。


「おれたち、似てる?」
「さぁ・・・似てるようで似てないんじゃないかな」


あなたは今、1人じゃないから。



「なに・・・わっ!」


呼ばれるとほぼ同時に腕を引かれる。
バランスが崩れ、そのまま後ろに倒れこんだ。

気付けば、腕の中。

顔は見えない。

しっかりと抱きしめられ、少し苦しい。


「・・・どうしたの?」
「機嫌、なおったね」


そういえば。

放課後のことなどすっかり忘れていた。

今日のことは、彼なりの配慮だったんだろう。

不器用だけど。


「そうね・・・でもなんでこうなってるの?」
「ん?なんとなく。気持ちいいかなって思って」


そういって肩に顔を埋められる。
香水ではない、なんだかいい匂いがした。
不思議と拒否感は生まれなかった。


「・・・おれ、さ」


そのまま彼が話し始める。


のこと、好きなのかな」
「・・・それは本人に聞くこと?」
「だって、わかんないし」
「知らないわよ、そんなこと」


冷たいなぁ、なんて彼は苦笑する。


「おれ、人好きになったことないからわかんないんだよね」


少し、腕の力が抜ける。


「ただ・・・のことは、もっと知りたいと思う」


ゆっくりと、顔が向けられる。
まっすぐ、真剣にこちらを見てくる。
なんだろう・・・今までと全然違う人が、目の前にいるようだ。

額が触れる。

息をすればそれが伝わる距離。



「・・・に、もっと触れたい」



本音であることは、痛いくらいに伝わった。


同時に、少しだけ怖くなる。


私の中が、全て見られているような気さえしてきた。


耐え切れず視線を反らしてしまう。


それからすぐに、腕からは開放された。



「・・・なんてね」



おれも何言ってんだろうなー、などと言いながら起き上がる。

春の空気は、少しだけ寒く感じられた。


、帰ろっか。送ってく」
「・・・うん」


もう、彼はいつもと変わらぬ彼に戻っていた。
自分を隠した、あの笑顔で私を見ている。

その笑顔に、今だけは少し感謝した。












***


見にくい背景ですみませんorz
長くなったけど結局つかず離れずの展開。

これから先ものんびり続きます。

2009/08/31