結局、あの日はあのまま帰った。
少し頭冷やしたら戻ろうとか考えてたんだけど。
頭は中々冷えてはくれなかった。



次の日、ちょっとだけ会うのは気まずかった。
でもおれ1人でそんな気分でいるわけにもいかず。
その後も普通に接した。
は、気付いていなかったようで特に何か反応を示すわけでもなかった。





ようするに、何も変わってない。





でも・・・おれの中は、日々変わってる気がする。










夏。


試験がひどかったので、夏季補習合宿が開催された。
慧が主催なので生徒会、補習担当者が全員参加の大きな合宿。
もちろん、おれとも。


暑いのにこんな山奥まできて、本当阿呆の世話って大変だよね。
いい加減嫌気がしそう。



唯一の救いは、が一緒だっていうことか。



「、このプリントは?」
「それは明日の分。今日はこっち」


最初はすごく参加を嫌がってただけど、なんだかんだちゃんとやってくれてる。
そりゃ、始めの不機嫌さといったらなかったけど。
諦めてくれたみたいでなんとかやってくれてる。



でも、なんだか少しだけ違和感を感じた。
いつもの不機嫌そうな表情ではなくて・・・なんだろう、何か変・・・?



「・・・、体調悪い・・・?」
「え?なんで?」


驚いた顔で逆に聞かれる。
気のせい、ならいいんだけど。
いつもとなんだか違う。


「いや、なんとなくね」
「少し疲れてるだけよ。特に問題は・・・」



「おーおー、お疲れちゃんだなァ~?そこのチビッコ~?」



目の前にはいつの間にか仙道せんせいが立ってた。
・・・やっぱり、名前で呼ぶのが気に食わない。


はちらっと仙道せんせいを見てすぐに視線をプリントに戻す。


「ど・う・も、”仙道先生”?」
「テメェは相っ変わらず嫌味たっぷり言いやがるナァ~?」


相手にするのも面倒なのか、声だけかけると、面白くなさそうに答える仙道せんせい。
なんだか、この空気って真壁せんせいの時より最悪な感じ。


「仙道せんせい、補習はどーしたの?」
「アァ?とりあえずなんか大っ量にプリント押し付けておいてやってんぜ~」


ニヤニヤ答える様子を見ると、本当にヒドイ量押し付けてんだろうな。
そして逃げられないような仕組みもしっかりしてそう。
当たった人、ご愁傷様。


「じゃあ監視に戻ったらどうです?好きでしょそういうの」
「それに飽きちまったんだよ。だーかーらーぁっ!」




次の瞬間には。
お手製水鉄砲が発射されてた。




普段のは避けてんだろうと思ってたおれが甘かった。



水はまっすぐ飛び、の顔面に直撃した。



「なぁにしてやがんだよ!テメェいっつも避けてんじゃねぇかよ!」



なぜか仙道せんせいが慌てたように騒ぐ。
は、上半身びしょぬれとはいかずとも、髪から上半身が濡れていた。



「、大丈夫?」
「・・・えぇ、とりあえず、拭いてくる」



それだけ言うと立ち上がる。
その瞬間。



の身体がふらついた。



「っ!?」



間一髪、支える。
軽くて正直、びっくりしたけどそれどころじゃなかった。



身体が、水を浴びた後なのに熱かった。



「え・・・もしかして・・・熱ある?」
「ハァ?テメェ、まぁた熱でてんのにそのままにしてやがったのかよ!?」



仙道せんせいが大声で怒鳴る。
また、ってことは昔もやったんだろう。
ということは、熱があることはほぼ確定だ。




・・・とりあえず、面白くない。




「・・・大丈夫だって言ってるでしょ」
「いいから、保健室行くよ」
「・・・嫌」
「生意気言うな」


そのままを抱え上げる。



あ・・・すっごい軽い。



の目が驚いたように開かれた。


「ちょっと・・・いいって言ってる・・・」
「黙ってろ」


少し本気で言うとは何か言いたそうな顔をしながらも黙りこむ。


「仙道せんせい、他の人に伝えといてください」
「あ、アァ・・・」


自分にも非がある分か、意外にも仙道せんせいが頷いてくれたのを確認して、おれは教室を出た。



***



「・・・で、熱はあったの知ってたわけ?」
「・・・少しふらつくだけだったから平気だと思ってたのよ」
「お前、実は相当阿呆なんじゃないの?」
「うるさいわね・・・」


保健室まで移動中、散々文句を言う。
本当はもっといい言葉かけてあげたい気持ちはあった。
でも、なんだか仙道せんせいがのことよく知ってるみたいな口調が気に食わなくて。
つい口から出てくる言葉は文句ばっかり。


そのまま保健室へたどり着く。
保健室、といっても簡易に作られたその部屋には担当医もいない。
ベッドにとりあえず寝かせると、タオルを探してに投げる。


「とりあえず拭いて。真奈美せんせいに頼んで着替え持ってきてもらうから」
「うん・・・」
「あと体温計。拭いたら体温測れよ」
「うん」


それだけ言うとから離れ、薬棚へ向かう。


なんだかもう、面白くないことばっかりだ。


「・・・全く、熱あるんだったら最初から言えっての」
「いいじゃない・・・特に動けなかったわけじゃないし」
「やっぱり阿呆だな」
「阿呆で悪かったわね・・・」


散々文句を言いながらおれは薬棚を覗く。
その場にある薬を手に取り、コップを取りポットから水を出す。
気付くと、を抱えていた部分が少し濡れていた。

正直、今のは直視できなかった。
夏服は薄いから困る。
だからおれは口を動かすことでごまかすのが精一杯だった。

「ほら、熱測った?」
「あぁ、もうすぐ終わるんじゃない・・・?」

聞いてすぐにアラーム音が鳴り響く。
が体温計を手にしたとほぼ同時におれはから体温計を無理矢理取り上げる。

「・・・38.5」
「あら、まぁまぁね」

何が、まぁまぁなのか問い詰めてやりたい。
普通の人なら倒れてもおかしくない熱だろう。
なにをこんなにのんきに言ってるんだ。

あぁ、もう頭爆発しそうだ。
なんでこいつがこんなになるまで普通に補習をしてるのかとか。
慧だけでもあいつら相手にさせたくない気持ちがあるのに、まで体調を崩してまでも補習をやってる。
なんだかおればっかりが心配して空回りだ。


・・・もう、なんなんだおれの周りは。


「・・・ねぇ」
「・・・何?」


突然呼び止められる。
おれは先程の苛立ちと先程のイケナイ考えを振り切るのに必死で、ぶっきらぼうに答える。


「・・・よく気付いたね」
「当たり前だろ。最初に言ったじゃ・・・」
「初めて、人に気付かれた」
「え?」


髪を拭きながらは言う。


「体調不良に気付かれたの、貴方が初めて」
「・・・ほんとに?」
「えぇ、隠すのは得意なんだけどね・・・驚いた」
「・・・まぁおれ、のこと誰よりも見てるし」


そういうとまた驚いたように目を丸くする。
あぁ、そういう仕草は女だなって思う。


「・・・どうだか」
「ほんとだって。今日のはため息がいつもより多かった」


1つずつ話していく。


「いつもより下向いてることも多いし」
「何、それ」
「それに、いつもより不機嫌さにも元気がなかったかな」
「意味わかんない・・・」


当たり前のように説明したら、余計不思議そうにおれを見てきた。


「だっておれ、を好きかもしれないんだし」
「好きかも、ね・・・貴方らしい曖昧な言い方ね」


相変わらず、といったように大きくため息をつく。
服はタオルで覆われていた。
それを確認しておれはベッドの側の椅子に腰掛ける。




「・・・体調悪いならすぐ言えよな」




これは本心。
だって本当に心配したんだから。


「はいはい・・・全く、親みたいね」


は呆れたような口調で答える。
少し熱があって火照った顔は、いつもより艶っぽい。
なんだか不機嫌な顔、呆れた顔でも色気があるように見えるんだから。




「・・・ありがと」




なんていうことを考えていたら。
突然ちょっとだけ、笑顔を見せる。
病人は少し弱くなる分優しくなるっていうけどさ・・・おれ、このと一緒にいたらもたないかも。



「・・・真奈美せんせい、呼んで来る」



それだけ言うと保健室を出る。
扉を閉めて、歩き出す。


『・・・ありがと』


あの言葉だけで、おれの中のわだかまりが消えた。
は、いろんな意味で無防備すぎる。
あれは本当に無意識でやっているのだろうか。



あの笑顔は、おれだけのために見せてくれたもの。



うぬぼれていいのか。



・・・うぬぼれてしまうくらい、好きなのか。



・・・あぁ、もうどうしようもないから早く真奈美せんせいに任せてしまおう。


おれが、どうにかなってしまうから。







***



更新遅れましたー!!
なんだかもうどう転ばそうか悩んだ結果こうなった\(^O^)/
ゆっくり進めたいのに急展開になりそうで怖い(笑)



2009/09/19