最近、なんだか腑に落ちないことがある。






「ねぇ、これってどうなってるの?」
「あぁ、これはこの図解を見ればわかるだろう」
「なるほど・・・そうなってるからここにつながるのね」



ここは生徒会室。
普段なら業務の繰り広げられているここも今は昼休み。
を誘って、昼ごはんを食べる・・・とこまではいいんだけど。





おれをほっといて、慧とは楽しく勉強話。



・・・なんだろう、この微妙な気持ち。



慧と仲良くされるのも楽しくないし、と仲良くされるのも楽しくない。



でも、慧もも俺には大事なわけで。



・・・ていうか、いつの間に仲良くなったわけ?



なんて、おれが考えてる間も2人はのんきに会話を続けてる。
勉強話からいつの間にか日常会話。
おれのときよりにこやかに話すを見るとなんだか苛々するし、慧もには心を開いてる感じがして面白くない。





・・・おれのストレスは溜まる一方。





「・・・どうした?那智」



やることもなく机に顎を乗せてると慧に聞かれる。
いつも慧はおれのこと、すごく気に掛けてくれてる。
それに慧にとってはそういう対象ではないことだってわかってる。
慧は、ただを認めているだけ。





わかってる、けど。





「んー、なんでもないよー」



にっこり笑って答える。
慧に心配そうな顔をさせたりはしない。
おれの中の気持ちが、どんなにぐちゃぐちゃになっていても。



笑っていたい。



「ちょっと寝不足で眠いだけだって」
「そうか、それならいいんだが・・・あまり無理はするんじゃないぞ」
「うん、ありがとーにいさん」



慧は、おれを信じてくれている。
だから、おれの言葉を信じてくれる。





これでいいとは思ってない。





でもこれでいいとも思っている。





だって、これで慧は心配することなく自分のことに集中できる。





普段なら、これで全て落ち着くんだ。
おれの周りは。





でも。





疑いのまなざしは、もう一つあった。











confession











タイミングを見計らって席を立つ。
誰よりも先に気付いたのは、慧ではなくだった。



「おれ、トイレ行ってくるねー」
「あぁ、わかった」



慧に返答をもらい、の方は見る事なく部屋を出た。
の瞳には、なんだか負けそうな気がしたから。
あの、まっすぐな瞳はとても好きだけど、こういうときは困る。



トイレなんて、行く気分じゃなかったので、おれはしばらく廊下を歩く。



昼休みは人が多い。
皆、はしゃぎまわったり移動したり色々。





正直、今は全てがうざったくしか思えない。





挨拶をしてくる生徒には一応笑顔で答えておく。
これが基本。
おれのここでの姿。
みんな、笑顔で騙される。
・・・ほんと、つまんないとこだよね。
ヘラヘラしとけばとりあえずおれのことを疑う奴なんていない。





あぁ、反吐が出そうだ。





しばらく歩き回った後、生徒会室に戻る。



「・・・あれ?」



そこに、二人の姿はなかった。
もしかして、二人でどこかへ?
考えが過ぎるたびに、なんだか胸の辺りが痛くなる。
あぁ、なんだこの気持ち悪さ。





「慧君なら見回りよ」





突然、聞こえてきた声に体が思わず反応する。
振り向くと奥の部屋から、カップを持ったが出てきた。





・・・それだけで、心からホッとしている自分がいた。





「・・・あ、そっか。もうそんな時間か~」
「そうよ、どこかの誰かさんがいないからって1人でね」



なんて言いながら、はカップを置いて座る。
自分の分と、もう一つ。



「飲むでしょ?紅茶、勝手にいれたけど」
「あ、ありがとー」



の席の目の前にカップは置かれる。
慧に聞いたのか、いつものおれのカップだった。
促されるようにおれはの前に座った。

はまたもテキストをめくり始める。
まるでさっきのことは全く気にしていないかのように。
おれはを観察しながら、紅茶に口を付ける。



「・・・おいしい」
「そう?いつも使ってるものみたいだけど?」



なんだか、いつも飲んでるのと違う気がするくらい。
すごくおいしく感じられた。
・・・なんでだろう。
なんだかよくわかんないけど、気分がよくなってきた。



気がつくと、が不思議そうにおれを見ている。



「なーに?」
「いや・・・一気に機嫌が直ってるから驚いて」
「え?」
「さっき。大分荒れてたみたいだから」



やっぱり気付かれていた。
しかし、そういうとこにばかり気付くんだから・・・不思議な奴。
慧だって、周りの奴らだってほとんど気付かないとこばかりついてくる。
まだ出会って間もないっていうのにさ。



「うーん、なんですぐ気付くのかなぁ」
「そうねー・・・貴方はわかりやすい人だと思うけどね」
「おれ、隠してるほうだと思うけど?」
「隠せば隠すほど、逆にわかりやすくなるのよ」



めくっていたテキストを閉じてにっこり笑う。
その笑顔は少し不敵に見えて、闘争心をあおってくる。

あぁ、そういえば夜はこの笑顔がもっと怖かったなぁ。



「ねぇ」
「ん?」
「那智文庫ってどんなの?」
「・・・は?」



・・・なぜ、今の流れからこの話を切り出すのか。
ていうより、どうして知ってるんだ・・・?
いや、慧しかいない。
慧と話をしてれば一度は耳にするだろう。
おれの力作、那智文庫。
しかし、あれは人前に出していいものではない。
でも、はなんだか輝かしい瞳でこっちを見てる。
・・・あぁ、なんか面倒なことになりそうな・・・。



「・・・それは、遠い昔のお話だよ」
「今度読みたいので、ぜひ読ませてね」
「だーめ。あれは慧限定」
「いいじゃない、慧君だって読んだらいいって言ってたよ」
「まったく・・・にいさんに読んでもらうために作ったんだからにだって読ませられない・・・」





言葉の途中でふと、気付いた。





慧、君?





「どうしたの?」





は不思議そうに首を傾げる。



今、は確かにそう呼んだ。



思えば最近、ずっとそう呼んでる。



はめったに人の名前を呼ばないのに。





また、胸が痛くなる。





「・・・なんで、慧を名前で読んでるの?」
「ん?あぁ、区別がつかないってうるさいからね」





さらりと答えられる。
でも、まだ胸が痛い。
そんな言葉じゃ、解決しない。





「・・・おれは?」
「え?」
「おれのことも、名前で呼んでよ」





なんだか、うまい言葉が見つからない。
でも、にだけは慧を特別にしてほしくない。





それは、相手が慧だから?





それとも、だから?





・・・頭が混乱しそうだ。





「・・・いや」
「・・・呼べよ」





胸が、痛くてイライラしてくる。
おれは、の特別にはなれないの?
は、おれの特別なのに。





おれのものに、なってほしいのに。





「・・・いや」
「なんで?慧を呼ぶのもおれを呼ぶのも一緒でしょ?」
「・・・違うから、いや」
「何が違うの?」
「・・・なんか、こう・・・くすぐったくなるから、いや」





顔を反らして呟かれたた言葉は、少しだけ予想外だった。
思わず、目が丸くなる。
よくわからない。なんなんだ?





「・・・え、どういうこと?」
「だから・・・なんだか知らないけど・・・違和感っていうか・・・」





言葉がしどろもどろになっているは初めて見た。
少しだけ顔が赤くて、それを隠そうと顔は横に反らしたままで。
自分でも、どうしたらいいのかわからないかのような振る舞い。





今度は、違う意味で胸が痛んだ。





「・・・ふーん・・・要するに、はずかしいんだ?」





思わず、顔がにやける。
これって最高の褒め言葉じゃない?
おれ、期待していいんだよね?





・・・期待?なんの?





おれの頭も、少しだけごちゃごちゃだ。





「・・・なんていうか・・・あぁもう、なんかこっぱずかしいのよ!だから呼ばないの!」





耐え切れなくなったのか、語尾に力が入り顔が上げられる。
その顔はやはり赤味を帯びていて、少し困ったような顔をして。



そんながかわいくて。



思わず机から乗り出し、に顔を近づける。
机にはほぼ上半身を乗せ、肘をついて視線を合わせた。
目が合っただけで、の顔は更に赤味を帯びていく。
にっこりと笑ってみせると視線を泳がせる。





・・・あぁ、かわいい。





「ねぇ、呼んでみてよ」
「・・・いやよ」
「1度でいいからさ、聞いてみたいな」
「・・・」
「今は、1度だけでいいからさ」





その声で、瞳で。

おれの名前を呼んで?





「・・・・・・那智、くん」





視線は反らしたままだったけど。


か弱い声で、でもしっかりと。


おれの名前を呼ぶがかわいくて。


もっともっと、そうしておれを呼んでほしくて。





あぁ、やっぱりおれは君が好きなんだと思って。





、好きだよ」





気付いたら声に出していた。





「・・・え?」
「うん、やっぱりおれ、が好き」



こんなに、夢中になる人なんかいない。
これほど、離したくなくなる人なんかいない。





おれだけのものに、したい。





「・・・何言ってんのよ」
「いくらでも言うよー?おれはがす・・・」
「あーもう!言わなくていい!」



慌てたように大声でが叫ぶ。
その仕草までもが、愛しく思える。
あぁ、自覚してしまうと大変だ。





もっともっと、ほしくなるよ。





「ね、だからおれのことも名前で呼んでよね」
「絶対呼ぶか!このバカ那智!」



勢いよく立ち上がるとそれだけ言い放ち、は生徒会室を出て行く。
おれは1人、笑いをこらえるのに必死だった。



「くくっ・・・はやっぱ阿呆だなぁ・・・」



バカ那智。



そんなこと言われたのは初めてだよ。
でも知ってる?名前で呼んでること。





これだけで嬉しくなるなんて。





「あーあ、おれって重症」



自覚してしまうことが、こんなにも一瞬の出来事だとは思わなかった。



今まで悩んでいたことが、全てバカらしく感じる。



なんでもっと、早くに気がつかなかったんだろう。



世界が、変わって見えるくらい。



楽しくなるなんて。









***


そろそろ自覚させたかったです。