なんだか、大変面倒なことになってきた。



それもこれも、あの人と接触してしまったから。



あぁ、あれは本当に失敗だったかな。










、補習の時間だよ〜」
「・・・きた」


声の主に聞かれないように呟く。
同じく補習担当、方丈那智。


変な人に、懐かれてしまった。


最初は驚いた。
夜の街で彼に出会ったこと。

でもなんだか納得がいくような気がした。
なんとなく引っかかっていた違和感がはっきりした。




彼は、とんでもない裏を持っていたこと。




最初は興味がなかった。
私を異色の存在としてみているだけの瞳が、嫌いだった。
そういう奴等は、たくさん見てきた。
だから、先手を打って断ち切ろうとした。





ところが。





「俺、をもっと知りたい」





などと言われてしまった。
なんて人だ。

あそこまで否定していても尚知りたいという。
ここまでつっかかってくるのは初めてだった。


同時に、少しだけ興味が出た。


なんで、そうまでして自分を偽るのか。


どうして自分のために何かしようと思わないのか。


なぜ、ああなってしまったのか。


少しくらいは、知りたいと思った。


こういう自分で持つ好奇心は初めてだった。


ただ。
厄介なのは変わらないようで。


「ほら、早くいこ?」


学校で見せるあのお得意の笑顔で私の手を引く。
おかげさまで私はすっかり注目の的だ。

まぁ、多分わざとなんだと思うけど。





***





相変わらず、A4は騒がしい。
4人しかいないのに、なんだこの騒がしさは。
ただでさえ1人相手するのも疲れるのに更に4人。

毎度のことながらため息が出る。

「ねぇねぇぴょん?」
「・・・その呼び方はやめてほしいんだけど」
「えー?じゃあでいい?」
「・・・どうぞ」

ここの人たちに名前とあだ名以外で人を呼ぶという概念はないのだろうか。
多智花八雲も、その中で色々名前を呼んでくる。


実は多智花の家とは縁がある。
遠い血縁のため、直接関わりはないから八雲は知らないだろう。
私の本性も、多智花の血を強く受け継いでしまった結果だ。

隠しているつもりはない。

ただ、出さないようにしている。

これで、得をすることは一切ないから。


ちゃんはぁ、どおして頭いいの?」
「・・・さぁ?なんででしょうね」


人より少し勉強はできた。
勉強が好きなわけでは全くない。
知識が増えることは悪いとは思わないし、何より自然に頭に入ってしまう。
ただ、頭の容量が大きかっただけのことだろう。

さも不思議そうにこちらを見てくる八雲の目は、不思議と違和感を感じなかった。
八雲だけではない、他のA4も同じ。

彼らは、私を好奇の目では見ない。

それはそれで、大変居心地がよかった。



「何かしら、不破君」
「甘いものは好きか?」
「えぇ、人並みには・・・ってなんで今そんなこと聞くの?」


突然の問いかけに答えると同時に、目の前にはクッキーが置かれた。
どう見ても、焼きたて。

ここは、調理場もかねているのかしら・・・。


「頭には甘いものがいいらしいからな」
「ありがとう。それはいいんだけど不破君も席についてもらえないかしら」


補習が終わらないんだけど。
そう思いながらもクッキーを食べる。
うん、おいしい。

「うーん、クッキー食べるだけでも絵になるねぇ、お姫様は」
「お姫様、とか呼ぶのはやめてもらえないかしら?」
「んー、じゃあ、コスモスちゃんでいいかな?」
「どうしてそうなるのかしら・・・」

嶺アラタはずっとこんな感じ。
この中では勉強に苦しんでいるようではないけど、なんだか調子が狂う感じ。
彼自身は何か持っている、そんな気がするけどそれはお互い様だろうから口には出さない。

「ほーら、成っちょ!勉強しろー」
「なんで俺様が勉強なんてしなくちゃなんねーんだってんだ!」

一番厄介なのが暴れてる。
成宮天十郎はA4のリーダー格。
それを特に何も考えてなさそうに那智がなだめている。

彼は厄介だけど一番単純。

「勉強できるようになると、成っちょの男前が上がるしモテモテになれるのになー」
「なにっ?モテる?」
「成宮君って、運動だけじゃなく勉強もできるなんて素敵〜!なんて言われて大人気になっちゃうよ?」
「・・・本当だなっ!?よっしゃぁ!勉強くらいかかってきやがれってんでい!!!」


一丁上がり。


最初は本当に面倒な奴等ばかりだし、一切関わりを持ちたくなかった。

頭がいいのに素行は最悪。
これだけで他人からは敬遠され、素行の悪さは好奇の塊として広がっていく。



誰ともかかわりたくなかった。



でも、なんだかここは違う。



A4は私の何かを気にしたりはしない。



方丈慧も、素行の悪さを本気で叱るがその他の面で何か気にすることはないようだ。



真奈美先生は、私を本気で心配してくれている。



今までで、一番おかしな空間だった。
こんなにたくさんの人が、こうして接してくれることはあっただろうか。


そう思うと、少しだけこの補習も苦ではないなと思う。
たとえ、いくら教えても理解できない子たちに囲まれていたとしても。



しばらくしてふと名前を呼ばれる。
自然に呼ばれる名前に、もう抵抗する気はなかった。

「なに?」
「そろそろ休憩いれよ?なんか成っちょがダレてきたし」

先ほど気合十分な声をあげた天十郎は机に突っ伏していた。
勉強することにまだ慣れてない頭は、オーバーヒートしているんだろう。

「そうね、10分ほど休憩しましょうか」
「「やったー!」」


お茶を飲みながら先ほど使っていたプリントを見直す。
様々な見当ハズレの答えは段々見慣れてきた。
こうした解答を見ながら、次の対策を考えなければならない。


教師というものも、面倒なものだな。


なんてのんきに考えていたら、隣に方丈那智が座る。

、調子どう?」
「普通よ。色々面倒だけどね」
「まぁあの4人なんだから当然だよねぇ」

おれもバテちゃいそう、なんて言いながら笑顔を見せる。
普通にしているつもりだろうが、やはりその笑顔は引っかかる。

「なんだかなぁ・・・」
「ん?なに?」
「いや、その笑顔はなんとかならないかしらと思って」
「笑顔?おれってそんなにかっこいい?」
「ばか」

それだけ言うと彼は「なんだよ〜」とふてくされる。


意外に彼は表情豊かだと思う。
あの笑顔ばかりかと思っていたからというのもあるけれど。
私の言葉に一喜一憂。素直にこたえてくる


そういえば、ここに来れるのは彼と会ったからだ。


あの日、あの時出会わなければ、ここまで彼に興味をもたれなかっただろう。


あそこでサボリを見つからなければ、テストも受けずに過ごしていただろう。


なんだかんだいって、彼が私の生活を変えていた。


正直、感謝とは言わないけど。



「・・・うん」
「どしたの?」



少しは。



「悪くないね」
「は?」



目をぱちくりさせて彼は私を見てる。



「ありがと」



それだけ言うと立ち上がる。

さて、休憩はおしまい。


「ほら、補習再開しますよー」
「えー!?俺様まだおやつ食べてんだっての!!」
「はいはい、じゃあおやつ食べながらね」



***



「・・・なんだよ」



1人その場に残って呟く。


は少しだけ打ち解けてくれた気はしてる。
補習は参加してくれるし、何より相手をしてくれる。
だからそれだけでもかなりの進歩だと思ってたのに。



「・・・あれは反則だろ・・・」



お礼を言われた。
あのときのは、笑ってた。


すごく、穏やかに。



そんなの見て、普通になんかしてられるか。
わざとなんじゃないか?あいつ。
思わず顔が赤くなる気がして手で顔を覆う。




・・・おれ、かなり重症?





***


色々と、真実が出てくればいいと思ってます。
主人公設定とかって作ったほうがよいのでしょうか?
タイトルは、ロシア語で「ありがとう」


2009/08/24